宇治の伝説 橋姫

Uncategorized

「橋姫」という伝説をご存じでしょうか。
京都・宇治橋のたもとにひっそりと佇む橋姫神社には、ある悲しくも力強い物語が         語り継がれています。

橋姫の物語

昔、一人の女性が、心から愛した男性に裏切られました。
深い絶望の中で彼女は、神にこう願ったのです――
「どうか鬼にしてください。私のこの苦しみを、力に変えてください」と。

彼女は宇治川で鬼になるための儀式を行い、やがて本当に鬼となって、              自分を裏切った者たちに復讐を果たします。

しかし宇治の人々は、彼女の行いをただの「恐ろしい話」として終わらせませんでした。
裏切られ、孤独にのたうち苦しみ、鬼にならざるを得なかったその想いを受け止め、         橋姫の魂を祀り、慰めたのです。

橋姫神社は今もなお、「悪縁切りの神」「橋を守る神」として、多くの人々に信仰されています。
そして、鬼となった女性の悲しみを静かにたたえた宇治川は、時代を超えて今日もなお、     人々の暮らしを見守り続けています。

橋姫のいろんな顔

橋姫神社の祭神は瀬織津姫で結界、境界を守り、                           罪や穢れを祓い流す女神で、各地に祀られています。                      上記の物語は一般に広く知られている橋姫の物語ですが、他にも橋姫は               その昔から多くの文学作品や書物にその名を登場させています。

例えば鎌倉時代初頭に成立した『袖中抄』には、橋姫は宇治橋の下にいる神で           離宮の神(宇治神社、宇治神神社)が毎夜、通っており、                    朝に宇治川の波の音が高いのは神が帰る印であるとされています。

『古今和歌集』では橋姫が「男性を待つ愛しい女性」の姿として歌われています。

そんな橋姫が、嫉妬深い女性のイメージとして定着するのは                  『平家物語(屋台本)』の「剣巻」に描かれた橋姫のイメージが強すぎたためでしょうか。

「嵯峨天皇の時代、公卿の娘が愛しい男性が他の娘のもとへ去ったことを嘆き悲しみ、

貴船大明神に鬼になることを祈願します。娘は貴船大明神の託宣の通り

21日間、宇治川に浸ることで鬼となり、復讐を果たします

橋姫の本当の姿は

今を生きる私が、もし同じように愛する人に裏切られたら――
果たして彼女のように、「鬼になって復讐する」ことを選ぶでしょうか。

家電も自動車も福祉制度もなかった時代、女性がひとりで生きるのは、              今よりずっと過酷だったはずです。
力仕事や危険から守ってくれる存在として、男性の存在は「愛情」以上に「生活の安全」      そのものであったのかもしれません。

その安全が奪われたとき、彼女が選んだのは――
**「鬼となって生きる」=「死に物狂いで、ひとりで生き抜く」**という道だったのかもしれません。

ただの怪談としてではなく、ひとりの女性の「生きるための叫び」として橋姫の伝説を見つめるとき、
私は彼女の強さと、ひとりで生きていこうとした辛さや痛みに共感と寂しさを覚えました。

下の動画は、古くら伝わる橋姫の伝説をもとに筆者が再話、再構成した物語です。

また、この記事を作成するにあたり以下の本を参考にしました。

  • 『京都を学ぶ 宇治編』 京都学研究会 株式会社ナカニシヤ出版 2023年
  • 『宇治をめぐる人びと』 編集 宇治市歴史資料館 執筆者 小嶋正亮  有限会社新進堂印刷所
mikiさんによるkimonogatari

コメント

タイトルとURLをコピーしました